雑談はコーヒーと共に

ダラっと好きな事について語り合いましょう、コーヒーでも飲みながら。

音楽から語るアメリカのLGBTQ+運動

さて、英語の教師としてたまに聞かれるのが「おすすめの洋楽ありますか?」という質問だ。そりゃもう色々とある。しかし、例えば私が好きなEd Sheeranは正直、教育的かというとそうでない曲がかなり多い。Beatlesを勧めても喜ぶ物好きは少ない。その中で個人的に、ぜひ日本人に知ってほしいと思ってる曲が一つある。ちょうどこの曲を勧めるのに丁度いい単元を扱っていたため、最近この曲を私のクラス全体に紹介した。せっかくなので、その時用意した内容をブログ用にアレンジして紹介したいと思う。

紹介する曲はMacklemore & Ryan Lewis feat. Mary Lambert "Same Love" だ。もちろん、この記事のタイトルにあるようにLGBTQ+の運動に深く関わる曲だ。その背景も含めて紹介したいと思う。興味ある方はぜひ。ちなみに超長い。読む暇がない人は一番下までスクロールして曲を聞いてくださいな。

2015年に話題になった動画

カリフォルニア州のロサンゼルスにあるサンタモニカ市。2015年のバレンタインデー。道を普通に歩いている人々。その中で、不思議なブースが出来ている。通りすがりが何事かと足を止め眺めていると、巨大なモニターに動く骸骨が映っている。どうやら、特殊な技術で後ろにいる人をレントゲンのような骸骨の姿で映し出しているようだ。二人がキスする。「ああ、バレンタインのイベントか」誰もがそう思う。二人の骸骨が両端に向かって歩き出す。すると、一部の人たちが驚きの声(または歓声)をあげる。両端から出てきたのは女性同士のカップルだった。二人の後ろに "love has no gender"(愛に性別はない)という文字が浮かび上がる。

www.youtube.com

様々な組み合わせが次々と画面の中に現れる。発達障害者、身体障害者、違う人種、違う宗教、高齢者、そして毎回、"love has no..." と愛にその壁は存在しない、と英文が浮かび上がる。

これは当時、Ad Councilという団体が立ち上げた性的マイノリティや他のマイノリティのための人権運動、Love Has No Labels(愛にレッテルはない)という運動だ。僕はこの時まだ高校生。動画を見たのは大学生の時だったかもしれない。確か、友達に「Mary Lambertの曲がすごく良いよ。ぜひ聴いてみてよ。」と勧められ、色々と聴いている時に見つけた動画だ。この動画を見た時にとにかく感動したのを覚えている。実際、とても上手く作られている動画だ。背景の曲とも上手くマッチしている。確かに、この頃は性的マイノリティの為の運動がかなり活発化していた頃だ。そしてこの挿入曲、 "Same Love" はこの頃の運動を鼓舞する代表的な歌として有名になった。

キリスト教背景

まずはキリスト教的背景から話そう。

アメリカでは女性の権利やLGBTQ+(以後、性的マイノリティ)の運動が昔から起こってはいた。しかし、昔は厳格な原理主義クリスチャンが多かったこともあって好意的に受け取られたことは少なかった。なお、原理主義クリスチャンがかなり反対していたわけだが、聖書を読み込むと性的マイノリティの権利を否定している部分はないと言って良い。同性愛者を否定する文言が書かれた箇所もあるが、それは当時の文脈で語られていたもので、現代に適用するとは常識的に言えない。聖書を読む時は文脈を考慮する必要があり、例えば、文脈を無視して読めば全ての反抗的な長男は全員処刑されないといけない(申命記21章18〜21節)。だったら僕も間違いなく処刑の対象だ(笑)。まあこの記事を読んでいる人の中には反対したい人もいそうだから、「その聖書の箇所が現代の価値観に適応されるものなのかは議論の余地がある」とまとめておこう。しかし、人間は全員、神の前では罪人である時点で平等であり、例え性的マイノリティであっても神の愛は注がれ、その人間の人権は全て尊重されるべきことは否定しようがない。それを否定する人間はクリスチャンでもないしまともな人間でもない。それでも差別は起きるし、まともな人間だって未経験のものを避けようとしてしまうことはある。そもそも、アメリカの原理主義クリスチャン達はアメリカ独立時に『独立宣言』で "all men are created equal" (全ての人間は平等に造られている)と主張したのにも関わらず、平気で黒人を奴隷として家畜扱いし続けた人々だ。このクリスチャン達には聖書的価値観よりもある種の集団心理や大人の事情が深く働いていた、と考えたほうがしっくりくる。

We hold these truths to be self-evident, that all men are created equal, that they are endowed by their Creator with certain unalienable Rights, that among these are Life, Liberty and the pursuit of Happiness.

−The Declaration of Independence

「すなわち、すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられているということ。」独立宣言より

この頃のアメリカのLGBTQ+運動の背景

話を2015年に戻そう。この頃は性的マイノリティにとってはどんな時だったか。それは、どんなに声をあげてもなかなか現実が変わらない、静かな怒りがアメリカ全土で沸々と込み上げてきていた状況だったと思う。もう少し前に時を戻してみよう。

2004年にサン・フランシスコは州・国の法律に反発して同性婚を認め始める。2005年にはニューヨーク州が。次々と州や街が同性婚のために立ち上がり始めた。しかし、国の法律は不動だった。

2010年レディー・ガガが"Born This Way" という曲をリリース。マドンナの "Express Yourself"に似ているという批判も受けたが、"Express Yourself"の訴える女性(や性的マイノリティ)は自己表現して良いのだというメッセージを更に広げ、全米の性的マイノリティに強く支持された。ある記者曰く、彼女のその歌は性的マイノリティ達の「叫び」だった。これ以上耐えられないという叫び。

2011年にクリスチャンであるオバマ大統領はDOMA同性婚を認めていないアメリカの結婚についての連邦法)が違憲であるという意見を表明。大統領が公の場で同性愛を支持する意見を表明するのは初めてだった。それでも国の法律は変わらない。

2012年、Mary LambertとMacklemore & Ryan Lewisというアーティストがコラボし、紹介した "Same Love"という歌をリリース。Macklemore自身はストレートらしいが(この歌の影響でよくゲイだと勘違いされている。僕も調べるまで勘違いしていた。)、ゲイの知り合いの体験を元に曲を書いたらしい。Mary Lambertは本人も母親もレズビアンであり、キリスト教信仰との両立に苦しんでいた。今、Mary Lambert本人はキリスト教信仰と性的嗜好は対立しないと結論付けているようだ。

この曲は、いくら叫んでも現実が変わらない、性的マイノリティ達の「静かな怒り」だったらしい。かなりの指示を得て2014年グラミー賞を受賞。同性婚の運動はこの頃から加速し、次々と州が同性婚を州の中で認めていく。アメリカは州が国のようなものであり、州の中ではアメリカ全土の法律よりも州法の影響のほうが強かったりする。"Same Love"はこの頃の性的マイノリティの感情を代弁していた歌、とも言えるだろう。

2015年にやっと、アメリカ合衆国最高裁判所の決定でアメリカ全土で同性婚が認められた。

僕個人の反応

性的嗜好が違っても中身は同じ人間。レントゲンを通して見てしまえば大して変わらない同じ人間。それがあの動画の打ち出したメッセージ。 キリスト教アメリカの性的マイノリティにとっては打ち倒すべき敵だったが(実際、紹介している曲でも弾圧する側として登場する)、僕自信はMary Lambertのように性的嗜好キリスト教は本来対立しないものだと思っている。

それでも性的マイノリティのことを本当に理解しだしたのは高校を卒業してからだった。卒業したらなんと、僕の仲の良い友達が次々とカミングアウトを始めたのだ。不思議と僕の周りの「男子」たちの多くはバイセクシャルであることをカミングアウトした。ちなみに、Mary Lambertのことを教えてくれたその友達もカミングアウトした人の一人だ。

大学では性的マイノリティを集める寮に移った。僕自身はストレートだが、性的マイノリティの話や意見を直接聞くことは目から鱗の体験だったりもした。この頃からやっと、少しは性的マイノリティについて本当に理解できるようになったと思う。

日本の現状

日本ではどうだろう。2015年に渋谷区と世田谷区で同性カップルの結婚を自治体が証明するようになった。この「パートナーシップ制度」は少しづつ注目されて支持を集め始めているが、国は未だに認めていない。注目を集めている話題のため、政治家達も女性の政治家の採用や、同性婚を認めることを議論し始めている。それでも、国会や会見で信じられないほど時代錯誤な差別的意見が政治家達の口からこぼれ続けている。まだまだ道のりは長い。実際、先ほど参考にした記事も "Macklemore's 'Same Love' Is Still Depressingly Vital in Other Parts of the World"(Macklemoreの"Same Love"はアメリカ以外の国では気が滅入るほど今でも必要とされている)とタイトルから述べている。これを読んでいる人の中には、例えば友達から「私はバイセクシャルなの」と言われたり、同性の友達から告白されたりすると生理的な拒否反応を示してしまう人もいるかもしれない。それは普通なことだ。人間は基本的には未経験の事柄に不安を覚える。昔の僕だって拒否反応を示した。そして性的マイノリティに対するあなたの意見は尊重する。僕自身、まだ学ぶべきことが多い。ただただ、全ての人間が価値観や性的嗜好によって弾圧されなくなる世界が訪れることを願わずにはいられない。その願いを込めて、生徒達にこの話をしたし、この記事を書いた。

曲の紹介

さて、かなり長くなったが、紹介する曲はMacklemore & Ryan Lewisによる "Same Love."また、Mary Lambertが自分の歌ったパートを一つの歌として書いた "She Keeps Me Warm"。どれも良い曲なのでぜひ聴いてみてほしい。正直、全日本人に聴いてほしい。聴いて良いと思ったら、ぜひ機会があった時に知り合いに紹介してほしい。

Mary Lambertの良いところは、性的マイノリティ以外にも女性のジェンダーロールに対しても声をあげている。「太っていたってあなたは美しい」というメッセージをはっきりと歌った曲もリリースしている。ぜひ、彼女の歌を聴いてあげてほしい。ちなみ僕は(ただのラブソングっぽいが)彼女の "So Far Away" という曲がキャッチーで好きだったりする。

Macklemore & Ryan Lewis "Same Love" feat. Mary Lambert

www.youtube.com

Mary Lambert "She Keeps Me Warm"

www.youtube.com

Mary Lambertの "She Keeps Me Warm" は定期的に歌ってしまうほど好きだ。生徒に紹介したことでマイブームがまた来ていたりする。あと、ちょっと紹介した "Express Yourself" や "Born This Way" もとても良い曲だ。ぜひぜひ。また、僕はジェンダー論やアメリカにおける運動について詳しいわけではない。調べながら書いた。間違ったことを言わないように注意したがそれでも気になる部分があればコメントしてほしい。もちろん、ただの意見や反応でも構わない。反論だっていい。とにかく、事実とは違うことを書いてしまっていた場合は見つけ次第修正しておきたい。

参考文献

www.kqed.org

edition.cnn.com

www.marriageforall.jp